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日本でDXが進まない理由

日本でDXが進まない理由

数年前にCQ(好奇心指数)の重要性(IQ、EQそしてCQ(好奇心指数)に関して書いたときには、根拠もなく日本人は他国の人材に比べて好奇心が弱いと思っていました。そして、それが原因の一つで、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)やグローバル化が、他国に比べ遅れているのではないかと考えていました。

しかし、鶴見和子氏著書の1972年に出版された「好奇心と日本人~多重構造社会の理論~」に書かれていることを読むと、もしかしたら日本人が他国より遅れているのは、好奇心の弱さではなく日本企業や社会の構造の課題のほうが影響しているのではないかと考えるようになりました。

 

実は好奇心の強い日本人

本題に入る前に好奇心という概念について説明をしておきます。
好奇心という概念を明確に使い始めたのは、1950年代に社会学者のソースタイン・ヴィブレンが初めだといわれています。その時には、目的達成に向かって知識の探究を行うことは、合理主義的行動であって理性的認識と表現しています。それに比べ好奇心とは情動的側面を表し、同じ知識の探究だったとしても、目的の自覚が無く意図的に手段の選択がされていない「無用な好奇心」と表現されています。
後年米国の社会学者WI・トマスが、ヴィブレンの概念をもとに好奇心をより体系的に整理をし、人間の保有する4つの願い(欲求)の一つとして「新しい経験をしたいという欲求」という表現で好奇心を表しています。これ以外にも好奇心をいくつかの種類に分けたりする社会学者もいますが、好奇心の説明はこのくらいにとどめておいて、本題に入るとしましょう。

「好奇心と日本人~多重構造社会の理論~」には、江戸時代に来日した欧米人が日本人について書いた文章が参照されており、その中では欧米アジアの他国と比較しても日本人の新しい物への好奇心の強さが紹介されていました。鶴見氏はその理由として、島国という地理的条件、鎖国と開国を繰り返してきた歴史、対立に対する多重構造社会的対処を挙げていました。さらに、「かつての先進国であったイギリスやフランスよりも、かつての後進国であった日本のほうが、現在でははるかに工業化が進み、政治、経済、教育、衣食住の全般にわたって、『伝統排除的傾向』が強いことを発見した。その理由を日本人の好奇心の強さが起因している。」と書かれていました。
最近のリサーチでもこのような日本人の好奇心の強さを証明するものがあり、各国のビジネスリーダーの好奇心とコンピテンシーを比較したときも、日本人の好奇心がダントツで強いことが201812月号のハーバードビジネスレビューで寄稿されていた「リーダーの成功と好奇心の関係」でも述べられていました。

 

本当の課題

では、なぜその好奇心の強い日本人が、それを必要とするDX、グローバル化で、他国より遅れをとっているのでしょうか。
この答に関しては、明確なリサーチがあるわけではないのですが、様々な文献やリサーチを統合すると、日本社会、日本企業の文化が影響しているのかもしれません。

これもまた、「好奇心と日本人~多重構造社会の理論~」で紹介されていたリサーチです。サルを実験に使い、特定のサルが持つ好奇心が、そのサルが所属するサル社会でどのような影響を及ぼすかを調べたものでした。その結果、好奇心の強い子ザルの行動は他のサルに影響を及ぼしにくく、及ぼしたとしても長時間かかることがわかりました。その反面、ボスザルなどサル社会で権力のあるサルたちの行動は、サル社会全体に短時間で大きな影響を及ぼしていました。
ここで重要なのは、権力を持つサル、年齢の高いサル達は秩序を好奇心より重要視していたことです。前述のWI・トマスが整理した、4つの願いの一つ「安定への欲求」がこれに該当します。トマスは社会と個人の変化に関する比較研究をするために、安定への欲求が強い人を「凡俗の人」、新しいことへの欲求が強い人を「ボヘミア人」、そしてこの対立する二つの欲求を調和できる人が「創造的人間」と分類していました。
このようなことを日本文化、日本企業に当てはめて考えてみようと思います。まず、異文化に関することで有名なホフステッドのリサーチでは、日本はリスク回避の分野でとても高い92、さらに、階層主義ではちょうど中間の54になっています。これが意味することは、不確実なことを嫌い、安定を求める、さらに、組織の上位層と下位層の権力の差がある程度存在することになります。しかも、日本企業で今までの慣習とされていた終身雇用、年功序列が後押しをし、組織の上層部に秩序・安定を求める傾向の強い人材が増えた可能性が考えられます。

 

課題の解決方法

日本企業のDX、グローバル化が他国より遅れをとっている原因分析として簡略化しすぎていることはご了承いただきつつ、もし日本企業の文化が一つの原因と仮定したときに、その解決方法に関して少し考察してみたいと思います。

海外売上比率を増やすなど、グローバル化を目指した多くの日本企業では、海外人事・グローバル人事・海外事業統括など専門部署を作ってグローバル化を推進したりしていました。その部署では、日本から海外との架け橋として赴任した人のサポートをしたり、部署自体が日本と海外の架け橋となったりしていました。
まさにこれが、日本人の好奇心が強い理由の一つにあった多重構造社会*2つの欲求を調和する「創造的人間」の実例ではないでしょうか。以前のブログで紹介した米国市場を開拓したHondaのスーパーカブの事例も該当すると思います。

*多重構造社会とは: 社会の矛盾や権力などの偏りに対処する方法の一つで、社会をいくつかの層に分け、他の層とは交わらないことで矛盾や偏りを解決(問題視させない)する社会のことを指します。

課題に対して、このようなアプローチをすることで、日本人が持っていると思われる強い好奇心を成果につなげられるかもしれません。異なることを推奨する、本人の好奇心を発揮できるような権限移譲、人材の「新しい経験をする欲求」を引き出す献身性(内発的動機)を高める仕組みなど組織として取り組むことで、日本企業のDX、グローバル化が加速されるのかもしれません。

 

筆者紹介
加藤洋平(カトウ ヨウヘイ)
クインテグラル株式会社 取締役

クインテグラルの前身であるAMAの日本支社に2008年に参加し、組織開発、グローバル人材育成、次世代リーダー育成、などさまざまな学習理論に基づき幅広いソリューションを構築、提供している。人の可能性を最大限開花させるお手伝いをすることをミッションとし、日々の業務と継続的な学習をおこなう。

 


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