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グッド「リーダー」

グッド「リーダー」

 「歳を取るにつれ、私は以前よりもはっきりと、明確に、それ自身の意味や心を持たないもの、愛情を伴わないものがいかに馬鹿げているかを感じるようになっている」 マルク・シャガール

私は本が好きだ
 私は本が好きだ。「本が好きだ」という言葉も好きだ。なんとなく知的で、インテリジェンスあふれるような響きは実に聞こえが良い。
 古本はあまり買わない。特に好きなのは新書だ。省スペースでたくさんのタイトルを並べられ、出版社が違ってもサイズに大きな差がなく、本棚に並べた時に美しい。反対に、サイズが大きく分厚い本はあまり好きではない。具体的なタイトルを出して申し訳ないのだが、英治出版の『ティール組織』と『サーチ・インサイド・ユアセルフ』は許せない。表紙の色やデザインはとてもきれいで美しいのに、なぜあのサイズにしたのだろう。どちらも分厚い本で、高さはA5判サイズ。比較的大きい本なのに、横幅は極端に短い長方形。本棚に並べてもあまり美しくない。実際に読んでみるとわかるのだが、常に閉じようとする力が働き、なんとも読みにくいのである。どちらも有名なタイトルなので、人材開発や組織開発領域に携わる方ならおそらく手にしたことがあるだろう。中身が素晴らしい両タイトルだけあって、実にもったいない。

 そう、私は「本」そのものが好きなのである。読書が好きなわけではなく、紙を束ねてとじている「本」という物体が好きなのである。特に、その匂いにひかれるのかもしれない。真新しい紙に文字が印刷された匂いは、どんな高級なワインであろうが絶対にかなわない。購入したての新書を開いて匂いをかぐ瞬間は至福の時である。私が古本をあまり買わないのは、それが理由であることも大きい。紙の触り心地も大好きだ。裁断の都合で、新しい本はページとページの端っこが圧着されてくっついていることがたまにあるが、あれを外すときのプチっという感覚は、キャビアが口の中で弾ける音より心地よい。

 これは昔からなのだが、読んだ本の中身はあまり覚えていない。どんなに面白いと思って読み終わった本でも、しばらくすると内容は全く覚えておらず、家族や友人にもひどく驚かれる。

読み手の状況が変われば、解釈も変化する
 ところで、無人島に持っていくなら『歎異抄』とは言われるが、生涯の一冊となると何を選ぶのだろうか。学生時代であれば間違いなく芥川龍之介の『侏儒の言葉』を選択していたと思う。ある日、友人から、「芥川作品は35歳を過ぎたら全く興味がなくなるらしい」と聞いた。そのときは半信半疑だったが、今思えばなんとなくその年齢前後から遠ざかっていたように思うので不思議なものだ。

 年齢を重ねた今、久々にこの本を開いてみた。今でもしっくりくる言葉がたくさん見つかったので、感じたこととともに記したい。

「好悪
わたしは古い酒を愛するように、古い快楽説を愛するものである。我我の行為を決するものは善でもなければ悪でもない。唯我我の好悪である。或は我我の快不快である。そうとしかわたしには考えられない。」

EQなどの感情が行動を決するということ、本質を鋭く表現しているように感じる。

「経験
経験ばかりにたよるのは消化力を考えずに食物ばかりにたよるものである。同時に又経験を徒らにしない能力ばかりにたよるのもやはり食物を考えずに消化力ばかりにたよるものである。」

成人の成長に欠かせない経験と、知識やスキルなどの能力の成長、双方の重要性が見事に表現されている。

 同じ文章でも、読み手の置かれている状況の変化によって解釈も変化していく。芥川の生きた時代は、日露戦争や第一次世界大戦など、戦争がより身近な時代だったと思う。

「恐怖
我々に武器を執らしめるものはいつも敵に対する恐怖である。しかも屡実在しない架空の敵に対する恐怖である」

 今、テレビのニュースでは爆撃された民家の光景を目にすることが多い。私が好きな「本」も、爆撃により一瞬で燃えつき灰になってしまうことを想像するととても悲しい。本には先代を生きた人々の知恵が詰まっている。そこには楽しいことばかりではない経験から得た知恵が詰まっている。そして、私の大好きないい匂いが詰まっている。

 ロシアの文豪トルストイは、「光あるうち光の中を歩め」の中で、キリスト教徒の教えとしてこうつづっている。

「悪が消滅するのは、そこから必然的に生ずる自他の不幸を、すべてのひとびとが理解した時にほかならない」

 私たちはまだ理解が足らないのかもしれない。

グッドリーダーであり続けること
 ところで、冒頭のシャガールの言葉は、先に紹介したなんとも読みにくい大きさの本である『ティール組織』の337ページ下段左端に引かれていたのを借用させていただいた。なんとも読みにくい大きさの本ではあるが、その独特の大きさのおかげで、各ページの下段には十分なスペースが空いており、このような引用文が紹介されているのである。

 言葉と出会わせてくれる「本」は素晴らしい。

最後に、多くの皆さんがご存じの「くまのプーさん」の言葉を紹介する。
A little consideration, a little thought for others, makes all the difference.
「少しの思いやりと、少しの他人のための気遣いが、全ての違いを生むんだ。」

あっちのプーさんは、国の「Leader」として、今どんな本を読み、何を考えているのだろうか。そしてその本の匂いがどんなものか、想像してしまうのは私だけだろうか。

いろいろ教えてくれ、考えさせてくれ、想像させてくれるいい匂いの「本」がやっぱり好きなのである。私は、これからも本好きの、Good 「Reader」でいようと思う。

 

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筆者紹介

山田 琢 Taku Yamada
クインテグラル株式会社

グローバルな仕事に従事しながら、国および企業文化の違いによる組織力の差に興味を持つ。それ以来、より良い組織を作るにはどうしたら良いのか、そもそも良い組織とは何かを探し求め、組織開発ファシリテーター・コンサルタント、企業内人事などに従事し、2018年より現職。人材育成の領域から、より良い組織作りに貢献することを目指している。


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