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続編「バーンアウト:燃え尽き症候群」を考える~私なりの思索~

はじめに
私の前回のブログが多くの方に読まれたと聴きましたので、続編を皆様にお届けしたいと思います。先ずは、私の拙い文章・ブログを読んでくださった皆様には、感謝を申し上げます。

前回はバーンアウト (燃え尽き症候群) に関する世界的な調査の結果報告、症状、要因、そして対処法について述べました。バーンアウトが個人要因から起こるだけではなく、多くは職場の問題に起因します。そのため、私たちはもっと環境要因に目を向けるべきではないかと問題提起をしました。HBR (ハーバードビジネスレビュー) の調査では、コロナ禍の前と比較して、世界中の85%の人が自分のウェルビーイング (良い状態) は低下したという結果がでています。そのような中、バーンアウト状態の人やそうなりそうで苦しんでいらっしゃる方が多く溢れているのも現実です。私は先日、皮膚科に通院しましたが、その隣の心療内科に人が溢れていたのには驚きました。

今回のブログでは環境や組織にではなく、個人の心の持ちようやマインドセットなどに焦点を当てます。バーンアウト状態に苦しんでいる方に対して、私なりの考えや経験談を徒然なるままに書いていきたいと思います。「こういう考え方もあるんだ」くらいの軽いお気持ちで読んでいただければと思います。

I am enough! 私は満ち足りている!
私はベッドに入るのが深夜の2時くらいになっても、5時台には鳥のさえずりと共に目を覚まします。リモートワークを始めて、1年7ヶ月ですが、ずっと同じです。 (年を取ったせいですかね?) 以前はスマホを枕元に置いていましたが、随分前から寝室にはスマホを持ち込みません。ニュースや記事、動画を見ながら、寝落ちし、そして、起きてからもスマホを開いて、1日をスタートする、そんな生活習慣に嫌気がさしたのです。1日のスタートの時に、もしかすると人生最後かも知れない大切な1日の始まりに、誰の声を聴くべきなのかと自分自身に問い掛けました。フェイスブックやインスタグラム、テレビのニュースではありません。ましてやコロナや殺人事件のニュースで、心を乱されて、1日をスタートしたくないと思いました。ここずっと、朝一番に最初に聴く声は、他でもない、私自身の声です。私自身に問い掛け、私の声を聴くのです。

言葉には非常に大きな力が秘められています。英語では言葉をTongue (舌) と表現することがあります。傷つける舌もあれば、人を殺す舌もあります。反対に人を癒し、励ますのも同じ舌です。可能な限り、朝は肯定的で希望の言葉を自分自身に語りかけ、そして、自分の腹に落ちるまで待つのです。「よし、やるぞ!」と自分の声を聴いて、やる気に満ちて始まる日もあれば、穏やかで平静に始まることもあります。そして、寝る前には、自分自身の1日の歩みに感謝します。無事1日を終えられること、関わってくれた人に感謝して眠りにつきます。この朝と夜の自分自身との対話の時間を大切にしています。特に調子の悪い状態の時ほど、自分との対話を長く持つようにします。なるべく良い状態に持っていけるように、自分に語りかけ、自分の声を聴くのです。どのような状態が良いかというと、「I am enough! 私は満ち足りている!」と言える状態です。それは経済的・物質的なことを言っているのではなく、心の状態のことです。上手く行っているから、満ち足りているのではなく、たとえそう思えないような反対の状況においても、満ち足りているのだと語りかけていると、自然と感謝が溢れてきます。今日という1日を感謝で始め、感謝で終えます。続けていれば、習慣化するので、皆さんにもお勧めします。

何にも支配されない
私は20、30代の若い頃は白黒をはっきりとつけたがる傾向がありました。しかし、50代の今は正しくなり過ぎないように心掛けています。色々な失敗を通して、自分自身が砕かれたのでしょう。「これしかない!」という物事の見方は窮屈です。白や黒だけではなく、黄色やピンク、赤に緑、時には「何だ、この色は」と思えるような色でも良いのではないでしょうか。ビジネスの世界でも人生においても、計画を立て、達成に向けて進むことは重要です。しかし、計画通りに進まないことの方が多いのも現実です。だからこそ、人生は素晴らしいのでしょう。瞬間瞬間に最善と全力を尽くすことは当然ですが、あとはLet it beと成すがままに任せることも、時には大切です。ベストを出していないと悔いが残りますが、出し切ったのであれば潔く諦めもつきます。上手く行かないのなら、失敗したのなら、またやり直せば良いだけの話です。

正しさ、計画、結果、物事の見方にあまり拘り過ぎると、そういったものに自分自身が支配されてしまいます。自分自身のことをコントロールできないのに、ましてや他人や状況をコントロールすることなどできないのは当然です。偏った色のレンズは捨ててしまい、多種多様のレンズで人・モノ・コトを見ることができれば、新しい発見があるかも知れません。このようなことを先日、人生の大先輩から教わったばかりです。まだまだ、私も現在進行形で訓練しています。何にも支配されない生き方や見方を身につけたいと思います。そのためには、不謹慎かも知れませんが、コロナ禍だからこそ、敢えて、なるべく多くの人と会い、お話しすることをお勧めします。世の中には素敵で尊敬できる人が何と多いことでしょう。人や物事にはさまざまな色があって良いのです。そんなことに気付かされるはずです。

影 (Shadow)
精神科医であり、心理学者であるユングの「影 (Shadow) 」理論についてご存知でしょうか。自分の「無意識」の中にいる「もうひとりの私」のことをいいます。例えば、「つい、○○してしまった」「つい○○と口走ってしまった」と言う時、○○を「した」のは「私」なのに、私ではないような言い方をすることありませんか?「無意識で○○してしまった」という時も、実際は「私」がしているのですが、あたかも「他人」がしたような心持ちの時はありませんか?このようなもう一人の自分を「影」と言います。つまり、自分自身でも認めたくない自分が、誰にでもあるのです。スターウォーズで言えば、それはダークサイドであり、画家の岡本太郎氏の言葉を借りれば、毒かも知れません。

ユングによると、30代中盤から50代にかけて、人にはミッドライフクライシス (中年の危機) があります。これを上手く乗り越えるには、この影を自分の中に統合・受容することがとても重要だといいます。光が強ければ強いほど、影は濃くなります。認めたくない自分の姿を他人の行動・言動で見出すことがあります。私の場合は、父と同じ怒り方をすることを発見しました。あんな怒り方は嫌だと随分毛嫌いしていたはずなのに、同じ怒り方をしていました。このような現象を投影と言います。投影を通して、自分自身の怒り、恥、自己中心、嫉妬のことが良く分かります。影の統合・受容が上手く行かないとき、または拒否したりすると、自分自身の心の表の面だけで生きることになってしまいます。つまり、考え方やモノの見方が偏り、他人を受け入れることができなくなり、「自分だけが正しい」と偏屈になってしまいます。人には、片方だけではなく、二面 (両面) 性があるのです。いや、あって良いのです。ゆっくりとでも良いですから、自分と向き合う時間を作ってみてください。先述の通り、朝起きた時、そして夜眠る前に持つことをお勧めします。影の無い光は無く、不完全さの無い心の完全さも無いのです。

Ring the bells
妻の父は金継ぎ (きんつぎ) を趣味にしています。陶器の割れや欠け、ひびなどの破損部分を漆で接着し、金で装飾して修復する技法です。欠けて使い物にならない湯呑や茶わんが金継ぎによって、見事に蘇るのです。ある時は欠けてしまったのと同じような色と質感の破片を沢山のガラクタの中から探してきます。勿論、全く同じものはありません。それを持ち帰って、欠けているところに継ぎ足していくのです。決して、元通りにはなりませんが、新品よりも金継ぎされた器の方に愛おしさを感じます。いつの日か、その器を譲って欲しいなと、秘かに妻も私も願っています。

レナード・コーエン (Leonard Cohen) という歌手をご存知でしょうか。2016年に亡くなったカナダ人で、ユダヤ人の家庭で育ち、優れた詩を多く書き、歌手として活躍した人物です。台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏のインタビューの最後には、コーエンの「Anthem」という曲のサビの部分が引用されています。YouTubeでも沢山あがっているので是非見てください。とても深い詩を書き、私も大好きな歌手です。オードリー・タンも良い趣味していますね(笑)。

Ring the bells that still can ring.
まだ鳴らせる鐘を打ち鳴らせ
Forget your perfect offering.
神に捧げられる完璧な物なんてないんだ、忘れてしまえ
There is a crack, a crack, in everything.
すべての物にはひびがある
That's how the light gets in.
光はそこ(ひび)から射しこんでくる

物だけにではなく、人の心の中にも「ひび」や傷はあります。人生で無傷でいられることはありません。隠している、認めたくないひびや傷から、何とも言えない温かい光が差し込んできます。逆に言うと、ひびや傷が無ければ、光の温かさを味わえないのかも知れません。何てなぐさめに満ちた詩なのでしょうか。まるで、鐘のひびから差し込む光と、金継ぎされた器が重なって見えるような気がします。

世の中には、不条理なことで溢れています。貧しさがあるからこそ、豊かさが分かることがあり、痛みや悲しみがあるから、癒しや喜びが分かることがあります。そして、争いがあるからこそ、和解や平和の尊さが分かることもあります。マイナスに見えるようなところにも、何かしらの意味があるのかも知れません。

2021年10月1日で緊急事態宣言は解除されました。世の中は、少しずつ平静に戻りつつあるようにも見えます。しかし、きっと心が追い付かない人も多いのではないでしょうか。このブログの読者にもバーンアウト状態で苦しんでいらっしゃる方がいるかも知れません。そうなりそうで苦しんでいらっしゃる方もいるかも知れません。是非、コーエンの曲を聴いてみてください。そして、どうぞ焦らないでください。また鳴らせる鐘を打ち鳴らすことができる日が来ることを信じましょう。

 

本ブログでご紹介した内容の詳細は、以下までお問い合わせください。
お問い合わせ:https://www.quintegral.co.jp/contact/

 

筆者紹介

未来への道標 A guide to future

新里 幹彦(ニッサト ミキヒコ)
クインテグラル株式会社

長年、日系・外資系企業でのマネージャーとして活躍。2013年よりクインテグラルで、日本国内の内資・外資系の企業の経営陣や幹部、次世代リーダーの方々を対象に、リーダーシップの強化、マネジメントスキルの向上、グローバルコミュニケーションの強化など、人事コンサルタントとして様々な課題に取り組んでいる。最近では、これらの経験を活かし、トレーナーとしても活動を開始。

 


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AMAは、1923年にニューヨークで設立されたマネジメント研修の分野で世界を代表する国際教育研修機関です。世界において10万人以上の個人クライ アントと約1万社もの法人クライアントから高い評価を受けています。 グローバルナレッジマネジメントセンターは、2012年2月より、AMA (American Management Association)のサービスを国内で唯一提供する会社として設立され、2017年10月、アジアへのAMAサービス展開 に合わせ、社名をクインテグラル株式会社に変更いたしました。


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