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「バーンアウト:燃え尽き症候群」を考える

burnout

ある劇画の有名なセリフ
「燃えたよ…まっ白に…燃え尽きた…まっ白な灰に…」
40代後半以上の男性はピンと来るはずです。これは1970年代初頭に大流行したボクシング漫画・アニメの「あしたのジョー」の最後の場面で、宿敵ホセ・メンドーサに敗れた主人公ジョー (矢吹丈) がリングのコーナーで呟いた最後の言葉です。次の日の朝は学校の友達とその話題で盛り上がったことを今でも覚えています。

ジョーのように多くのスポーツ選手が現役引退をする時に、「燃え尽きた」「やり切った」「後悔はない」などのような言葉を発します。その選手の最後の言葉なのに、ある意味、達成した後の清々しささえ感じる言葉です。翻って、ビジネスの世界の人たちが「あしたのジョー」のような言葉を発することはあるでしょうか。私はあまり聞いたことがありません。どちらかと言えば、「疲れ切ってしまった」「燃えたかったのに燃えられなかった」「やりたかったことがやれなかった」という不完全燃焼の意味に近い、後悔、喪失感や抑鬱感さえ感じる言葉を聞くことはあります。今回のブログは燃え尽き症候群、いわゆるバーンアウト (Burn out) について考えていきます。

世界共通の問題
2020年秋、HBR (ハーバードビジネスレビュー) は46か国1500人超に対して、コロナ禍における燃え尽き症候群、バーンアウトについての調査を行いました。以下、興味深い質問と回答をいくつかピックアップしてみました。

Q1: コロナ禍の前と比較して、あなたの職場のウェルビーイングはどのように変化しましたか?
  向上した 20%
  低下した 89%

Q2: 低下した要因は?
  仕事への要求水準の高まり 56%
  繋がりの喪失による困難  24%

Q3: コロナ禍の前と比較して、あなたの生活全般のウェルビーイングはどのように変化しましたか?
  向上した 22%
  低下した 85%

Q4: 低下した要因は?
  メンタルヘルスの悪化     50%
  働くことへの要求水準の高まり 26%
  孤立感とつながりの喪失    20%

上記以外にも89%の人が「ワークライフは悪い方向へ進んでいる」と回答しています。この調査で分かったことを一言で述べると、バーンアウトは世界共通の問題だということです。通常の時代でも対処が困難であったバーンアウトですが、コロナ禍により一層加速的に深刻化してしまいました。早い解決が望まれるのは言うまでもありません。

バーンアウトの症状
バーンアウトの症状は3つに大別されると言われています。仕事への思いや意欲が低下し、情緒的消耗感が激しいことが一つです。次にシニシズム、いわゆる冷笑主義です。自分以外の人や職場、組織に対して関心を示さないだけではなく、自分に対しても冷ややかな目で見てしまいます。何をやっても報われない、評価されることなんてない、私なんか…といった諦めの境地に入ってしまっている状態です。ミレニアル世代などの若い世代に多いとある文献で読んだことがあります。最後に個人的達成感の低下です。情緒的消耗感、シニシズムにより、その人の仕事のパフォーマンスや質はどんどん低下し、当然本人の達成感は低下する状態です。今までやる気に満ちていたのに、使命感を持っていたのに、いつのまにか大切な何かを喪失し、自己否定へと結び付いてしまいます。

これらはうつ病と類似する症状も多いと思いますが、うつ病は公式かつ代表的な精神疾患です。バーンアウトは「職場における慢性的なストレスが適切に対処されずにいる結果として起きる諸症状」として、WHOが2019年に「疾病及び関連保健問題の国際統計分類 (ICD) 」 (2022年1月発効予定ICD-11) に加えました。

バーンアウトの要因
バーンアウトの要因は、神経質、真面目過ぎる、完璧主義など、その人の性格、つまり個人要因によるものと、労働環境や仕事のボリューム、厳しいルール、上司との関係などの環境要因の2つが影響していると言われています。米国のこの分野の専門家が要因を分析した結果、以下のようなことが分かりました。

  • 継続が不可能なほどの業務過多になってしまった
  • 自分自身にコントロールする権利が無かった
  • 仕事量と報酬が見合っていなかった
  • 従業員が困難に直面していることに気付かなかった

私はこの結果を読んで、多くの企業がとっている対処法にとても違和感を覚えました。上記の要因は個人が対処できる問題ではなく、会社・組織・職場の問題です。ヨガやマインドフルネスを導入したり、体力強化のためのジムの費用を負担したりしている企業が増えてきています。これは個人のウェルビーイングを高めるには良いかも知れませんが、バーンアウトを根本的に解決できる手段ではありません。また、最近「社員のレジリエンス (適応する力、回復力) を高めるには?」とか「個人の耐性を強くするには?」ということが話題に上ります。それらを強化するための研修を提供してくださいといったご相談を受けることもあります。しかし冷静に考えると、どうでしょうか。その人の「自己鍛錬の不足」が故にバーンアウトしているのでしょうか。その人が強くないから燃え尽きてしまっているのでしょうか。レジリエンスや耐性を強化することが根本的な解決ではないと私は考えます。会社のために尽くしている社員・従業員の方に対して、もっと強くなりましょうと言うのは酷ではありませんか。それでは余りにも不憫です。その人の個人要因がバーンアウトを引き起こしている可能性があることを私も否定はしませんが、私たちはもっと職場の問題であること、環境要因にもっと目を向けるべきではないかと考えます。

バーンアウトの対処法
前述のバーンアウトの4つの要因の後に括弧書きをそれぞれ記しました。それぞれの言葉の前に、職場・リーダー、私、あるいはご自身の名前を追加し、自分事として読んでみてください。

  • 継続が不可能なほどの業務過多になってしまった (調節しなかった)
  • 自分自身にコントロールする権利が無かった (融通性を与えなかった)
  • 仕事量と報酬が見合っていなかった (不公正、正しく評価しなかった)
  • 従業員が困難に直面していることに気付かなかった (無関心だった)

これは私自身への戒めでもありますが、過去、何人もの部下を追い詰めてしまったことを深く反省しています。私が部下の業務量を調節していれば、もっと部下に融通性を与えていれば、もっと公正に評価していれば、もっと彼や彼女に関心を持っていれば、その人は燃え尽きず、今でも使命感を持って生き生きと仕事に励んでいたかも知れません。

バーンアウトは根が深い問題です。会社が介入できない分野もありますが、私たち一人一人ができることもあるのではないでしょうか。前述の要因に対して、一つ一つ対処することは最重要事項ですが、今日からできる、もっと簡単なことがあります。上司でも、部下でも、誰でもできることです。それは、「調子はどうですか?」と先ず職場の仲間に聞いてみることです。「大丈夫です」と相手が答えたとしても、「で、本当のところはどうですか?」ともう一つ追加の質問をしてみてください。頑張って、弱さを表してくれたなら、「正直に話してくれて、ありがとう」と言ってみてはどうでしょうか。そして、その人の話に耳を傾ける時間を持ってみませんか。弱さを認めあうことができる、正直で誠実な職場はなんと麗しいことでしょう。そのような小さな一歩から始めてみませんか。

最後に
「助けて」と言える人、そう言える相手がいる人は、それだけで十分強いのである。

~医学博士 川村則行~

本ブログでご紹介した内容の詳細は、以下までお問い合わせください。
お問い合わせ:https://www.quintegral.co.jp/contact/

 

筆者紹介

未来への道標 A guide to future

新里 幹彦(ニッサト ミキヒコ)
クインテグラル株式会社

長年、日系・外資系企業でのマネージャーとして活躍。2013年よりクインテグラルで、日本国内の内資・外資系の企業の経営陣や幹部、次世代リーダーの方々を対象に、リーダーシップの強化、マネジメントスキルの向上、グローバルコミュニケーションの強化など、人事コンサルタントとして様々な課題に取り組んでいる。最近では、これらの経験を活かし、トレーナーとしても活動を開始。

 


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