新しい一手!組織が望む「自律的なキャリア形成」への導き方 ~変化を促す“場”をつくる~

 

今回の一手

組織が望む「自律的なキャリア形成」への導き方 ~変化を促す“場”をつくる~

特定の環境に長くいると、その環境で培われる行動や意識が自然に身につき、それに伴った行動や考え方を行うようになります。このようにして身についた行動や考え方を、打破するのは難しいのではないでしょうか。
一例として、ハーバード大学のエコノミストであるラジ・チェティ博士とナサニエル・ヘンドレン博士が行った「機会均等プロジェクト」が挙げられます。このプロジェクトによると、人が社会経済的なステータスをどれだけ改善できるかは、居住地に大きく依存することが分かり、同じ環境においては、新しい行動や意識は育ちにくいということが研究されています。
身近な例としては、COVID-19によるリモートワークの導入などで、労働環境が劇的に変化したことが挙げられます。Post COVID-19において、リモートワークは、必要に迫られた施策ではなくなり、今後の働き方の選択肢の一つとなった後も継続していくと予想されています。これは、環境が大きく変化したことに対し、企業や人が適応し、そのメリットを享受した結果だと思われます。

[参考資料] AMA Research 不確実な環境における人材の変化

新しい“場”をつくり、異なる環境に触れる機会を提供する

組織に所属している場合、環境を大きく変える方法として、異動や出向、海外赴任等があります。このような機会を得た場合、パンデミックのように、これまでの働き方を変えざるを得ない状況に直面し、強制的に行動を変えるきっかけになることがあります。ただ、全ての人に出向や海外赴任の経験をさせることは現実的ではありません。そのため、これまでは、同じ組織で働きながら新しい環境を用意し、変化の機会を得て行動変容につなげられる人は、一部に限られることだと考えられていました。
しかし、リモートワークが普及した現在では,物理的な観点での“場所”という概念は薄まり、ミラーワールドに近い形の場所がオンライン上で構築され、そこでコミュニケーションする動きが広まり始めています。この変化によって、物理的な場所の制約が取り除かれ、これまでよりも、新しい環境に気軽に触れられるようになりました。このような時代の変化を活かし、異なる意識や価値観を持つ人が集まる場を新しい環境として提供したら、どのような変化が起こるでしょう?自分自身が今いる環境がすべてではないと気づいた時に、人は今までよりも多くの選択肢や、自分の求める環境を自律的に探し始め、行動変容を起こしていく可能性があるのではないでしょうか。

今回の「新しい一手」では、異なる環境での経験を行動変容につなげることに挑戦します。

周囲の環境が大きく影響する「キャリア形成」

同じ職場環境では起きづらい行動変容の一例として、「キャリア形成」が挙げられます。
経済産業省の提言「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言」*1によると、従来の日本型雇用コミュニティでは、企業主導のキャリア形成が求められていましたが、変化への対応やイノベーションが重要となるこれからの雇用コミュニティでは、個人の自律的なキャリア形成が求められるとし、個人の自律的キャリア構築の支援を優先課題として挙げています。しかし、日本では自律的なキャリア志向の意識は低く、会社任せにする人が多いのが現状です。
変化の激しい時代には、自分自身の核を持ちながら変化に対応し、キャリアをその都度修正する必要が求められます。しかし、これまでと変わらない環境にいると、そのような考え方に至りづらく、結果として企業への依存状態に突入する可能性があります。これは、冒頭で紹介した「機会均等プロジェクト」の結果と同様、新しい行動や意識が育ちにくい環境です。
このような状況を打破するためには、異なる環境での経験を通して変化を促す必要があります。

*1:「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言」
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/20190326_report.html

組織が後押しする自律的なキャリア形成

今年初頭、今回の新しい一手のアプローチを取り入れたワークショップを、複数企業の合同研修として実施しました。このワークショップでは、「キャリア形成」をテーマとし、自身のキャリアを現在所属している環境だけから導いてしまう傾向がある方を対象に、自律的キャリア形成を後押しできるような研修設計にしました。以下、本ワークショップを設計する際に注意した2つの課題をお伝えします。

課題1 自律的なキャリア形成に対する組織と従業員の意識のギャップ

自律的に自身のキャリアを形成するようになることを期待して、異なる環境を従業員に経験させる前に行うべきステップがあります。それは、キャリア形成を自分自身で行うことが肯定される状況であると明確に伝えることです。
繰り返しになりますが、従業員のキャリア形成を組織が主導してきた期間が長いため、「個人でキャリア形成をすることは、周囲からよく思われないのではないか・・・」という懸念や不安が生じがちです。実は、このような意識が生じた瞬間、異なる環境で培われた異なる価値観を受け入れるという選択は、心理的にしづらいものになってしまいます。しかし、自律的なキャリア形成を「組織も望んでいる、後押しをしたい」というメッセ―ジを対象者にしっかりと伝えることで、異なる価値観を受け入れる準備ができ、自律的なキャリア形成の一歩を踏み出しやすくなります。さらに、フォロー体制も整えることで、組織として自律的なキャリア形成を重要視し、応援していることが対象者に伝わり、環境の変化を通した気づきを受け入れやすくします。
そのため、組織が変化を求めていることに対する理解を参加者に促し、変化させるための教育やフォロー体制を明確にしたうえで、普段とは異なる環境を経験できる場を設けました。

課題2 どのように新しい環境(“場“)を用意するのか

次に、どのように異なる環境を経験できる場を提供するかという課題がありました。
今回は、複数企業の合同研修として開催し、参加者の階層や役職についても制限を設けずに行うことで、普段の環境とは大きく異なる“場”を設けました。また、会社も階層も違う参加者同士が話す機会を作るため、グループワークを多く取り入れることによって、下記のような効果を狙いました。
  • 同じ環境で培われた考え方ではなく、社内では出会えない意見やキャリアへの考え方を持つ人とお互いの意見を共有する
  • これまでの「当たり前」が自分の周囲に限られた一部の価値観であることを気づかせる
  • いつもとは異なる環境でアウトプットすることで、これまで自身が秘めていた考えを表面化させる

さらに、自律的なキャリア形成を行い、自身の価値観、考え方を基盤としたキャリアを描いているロールモデルのパネルディスカッションを加えました。ロールモデルの人選も、1つの企業から選出するのではなく、各企業から複数人のロールモデルに登壇を依頼することによって、多様なキャリア形成を知り、キャリアの描き方は一つではないことが伝わるように工夫しました。

 

具体的な実施前~実施後までの流れ(例)
具体的な実施前~実施後までの流れ(例)

<事前共有>
組織が自律したキャリア形成を望んでいることをメッセージとして伝える
<講演>
これまで企業主体で行われてきたキャリア形成を自身で行うための知識のインプット
 ✓ キャリア形成の変化とその必要性
 ✓ キャリア形成手法
<グループディスカッション>
自分の周囲と異なった環境で、新しい考え方や価値観に触れる
 ✓ キャリアについての考え方/行動
<パネルディスカッション>
自律したキャリアを体現しているロールモデルの存在を知る
<フォローアップ>
自立したキャリアへのフォロー体制(現在の環境を変える取り組み)
 ✓ 自身のキャリアを相談する(キャリアカウンセリングや1on1コーチング)

新しい環境で芽生えた意識

上記の合同研修を終了後、参加者からは、下記のように、自律的なキャリアに関する意識の変化を感じるような感想を多くいただきました。

“自分自身で今後のキャリアを考える必要性を感じた”
“会社が働き方を変化させる中、漠然とした不安を持ちつつも、行動を起こせないし、現状が変化することに反発もしていたが、自分から様々な情報を取りに行き、キャリアを考えていこうと思った”

また、企画者の方からも、組織から従業員に対する働きかけの重要性や、実際にワークショップ内で活発な質問が行われる等、参加意欲の高まりに手応えを感じられたとの感想をいただけました。印象的だったのは、「組織としても新しい挑戦の中にいる従業員を放っておくのではなく、協力して一緒に取り組んでいきたい」と、更なる取り組みへの挑戦について、意欲的に発言されていたことです。
これらの反応から、今回の「新しい一手」のアプローチが、皆さまの今後のキャリア形成に少しでもお役立ていただけたのではないかと感じています。

新しいテクノロジーを活用して新しい環境を体験する

環境を変化させ、行動変容を起こすことを手軽に体験する方法として、VRなどの新しいテクノロジーが取り入れやすくなりつつあります。仮想現実下で新しい環境を自ら体験することで、これまでの環境では得られなかった気づきを獲得する等、実現が困難であったことが、テクノロジーの進化により気軽に実現できるようになりました。
私たちは、変化するビジネス環境での人材育成には、従来の人材育成方法を踏襲するだけでなく、今まで取り入れられていなかったような研修設計や、新しいテクノロジーの活用などが一層求められるようになると考えています。これからも、“今”必要なものを考え続け、企業の成長に不可欠な人材育成の新しい一手を提供して参ります。

 

 


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