新しい一手!パーソナライズの第一歩

 

今回の一手

人材育成のパーソナライゼーション ~e-Learningの学習効果を高める仕組み~

企業内研修を企画するときには、受講者のあるべき姿(To Be)と現状(As Is)を明確にし、そのギャップを埋める方法を考えます。しかし、多くの場合、受講者の現状の知識や経験、習熟度が異なるため、最大公約数を見つけ、できるだけ多くの受講者が学習できる内容に設計します。

ここ最近、ジョブ型の人事制度導入、新卒一括採用の縮小、年功序列・終身雇用の廃止をしている企業が増えてきています。これらの変化から、今まで年次毎に求められる役割やスキルが定義されていたのに対し、それぞれの従業員に求められる役割やスキル、さらには、スキルレベルや経験・知識が大きく異なっていくのではないかと、私たちは考えています。
このような状況になると、集合型の企業内研修を効果的に企画するのが困難になり、一人ひとりのニーズに合わせるパーソナライズされた能力開発が、今以上に求められるようになっていくのではないでしょうか。しかしながら、パーソナライズされた能力開発というと、現状は1on1コーチング、MBAや資格の取得、e-Learningなどの自己学習が中心になります。このような施策は、集合研修に比べ、一人当たりの予算が高い、または、学習の定着やスキル活用の効果性が懸念されています。

このような“予算”と“効果性”における課題を打開するために挑戦した「新しい一手」として、今回は「パーソナライズ」という観点と「e-Learningを効果的に活用する」観点からなる2部構成でご紹介させていただきます。

受講者が自身の能力開発計画を策定する、人材育成のパーソナライゼーション

|不確実な時代が喚起した個人の能力開発ニーズ
自発的に目標を設定し、その目標を達成するために、自分が強化すべきスキルや学習すべき知識を習得する ー 多くのビジネスパーソンがこのように学習できれば良いのですが、目の前の仕事を進めながら、自分の能力開発を意識して、学習・実践し、プライベートの時間も確保することは容易ではありません。さらに、学習したことがすぐに活用でき、成果につながらなければ、学習するモチベーションを維持していくことは難しい場合が多いのではないでしょうか。また、新しいことを学習しても、業務ですぐに活用できることは稀で、成果として現れるまでに時間がかかります。

能力開発のパーソナライゼーションを進めるためには、各自が時間を確保し、学習・活用することが重要です。多くのビジネスパーソンが、VUCA環境を実感する機会が増え、自分の将来に関する危機感の高まりと、それに伴う能力開発に対する意識が、以前に比べ高まりました。
そこで、今回パーソナライゼーションに関して挑戦したことの一つは、各受講者が効果的な能力開発計画を作成し、学習するモチベーションを維持できる能力開発です。

|様々なアプローチを取り入れたプロセス
受講者が効果的な能力開発計画を作成・実行しながら、学習意欲を継続できる環境を作るために、下記2つの要素を考慮しながらプログラムを組み立てました。

1. 各受講者が効果的な能力開発の計画を策定するプロセス

プログラム全体の流れを構築する際には、アンドラゴジー(成人学習)の原則*1を活用しました。こうすることで、何を学習し、どう活用できるかを、各受講者が認識できる流れを作ることを目指しました。

*1 アンドラゴジー(成人学習)の原則:成人が効果的に学習するための考え方

アンドラゴジー(成人学習)の原則:成人が効果的に学習するための考え方

2. 学習意欲を継続するために取り入れたアプローチ

  • 行動の弱化と強化を促進するための周囲からのフィードバックの機会を提供
    学習に対するモチベーションを維持するための取り組みです。
    行動科学の分野では、人間の言動の弱化・強化をするには、その行動の直後に肯定的メッセージまたは否定的メッセージを伝えることが効果的だといわれています。
  • 習慣化させるための中長期でのサポート
    中長期的に、モチベーションに影響されず、学習を習慣化することを目指した施策です。
    特定の習慣を定着させる、または、変えるためにかかる期間に関するリサーチは、様々あります。Dr. Jeremy Deanの著書では、21日間と紹介されていますが、他のリサーチでは習慣化する内容によっては、90日程度かかるものもあるという見解を示しています。
  • 学び方を学ぶ
    「学習の4段階*2」等、スキルの学習方法を紹介します。
    それぞれのレベルに合った内容・学習方法を理解し、簡単すぎず難しすぎない、適度なストレッチ度合いを見つけるための施策です。

    *2 学習の4段階:人の能力の4ステージ(ステージ1:知らない、できない、ステージ2:知っている、できない、ステージ3:知っていて、できている、ステージ4:知らず、できている)のこと。5段階に分けているものもある。諸説あるが、米国の人材育成企業Center for Management Services Inc.の創業者 マーティン・ブロードウェルが最初に提唱したといわれている。マーティンはこの学習モデルを、教える能力を説明するなかで活用している。

e-Learningの効果を最大化する

個別学習ニーズを満たすために、短時間・低予算で実施できるe-Learningがありますが、使用率、完了率、そして学習の定着率、すべてにおいて課題を感じているのが現状です。
ここからは、低予算で個別学習ニーズに対応するために、e-Learningの効果を最大化する挑戦についてご紹介します。

|改善された学習コンテンツとアクセサビリティ

この挑戦が可能になった背景には、無料・低価格な学習コンテンツや提供プラットフォームが増加したことが大きく起因しています。知識を習得する方法として、様々な種類のe-Learningと、それらに簡単にアクセスできるLMSを準備し、いつでもどこでも学びたい時に学べる環境を整えました。e-Learningの懸念点である効果性に関する課題を解決するため、上述したアンドラゴジー(成人学習)のステップ1と2で、受講者自身がスキルを学習する必要性を感じられるようにプログラムを設計し、それをe-Learningで学習できるようにしました。モチベーションに関する研修などで紹介される下記引用に近い考え方です。
“馬を水飲み場につれていくことはできても、喉が渇いていない馬に水を飲ますことはできない。馬を走り回らせたら、自ら水飲み場に行き水を飲むだろう”

さらに、学習後の施策の一つとして、学習したことを現場で活用できるように、受講者の上司に協力を仰ぎ、学習したスキルを必要とするようなプロジェクトやタスクをアサインしてもらえるような仕組みを設計しました。
この仕組みだけだと、あまりに単純化されているように感じるかもしれません。しかし、少しのサポート(結果の提出や発表を義務付け、少しだけ強制力を働かせる)を設定しておくことが肝心です。はじめは学習に受動的だった受講者が、行動の強化を促進するようなフィードバックを周囲からもらうことや、成果につながるタスクをアサインされることにより、最終的に能動的な学習、実践を行えるようになることを目指しました。

全員が中途入社のマネージャーに、共通のバリューとスキルを浸透させるワークショップ

先日実施した、マネージャー向け研修には、社歴は様々でしたが、全員外部から採用されたマネージャーの方々が参加されました。在宅勤務の影響で、互いの日々の言動などがわからないまま、今までの自分の仕事のやり方を各々が継続していました。この組織の社長は、各チームが個人商店のようになってしまうことを懸念し、統一されたコーポレートカルチャーを醸成するための施策を検討していました。その施策の一つである「会社のバリューを体現できるマネージャーの育成」を私たちがお手伝いさせていただくことになりました。

セッション1では、先ず組織全体に起きている変化、それに対する懸念、その状況下でマネージャーに期待する役割と行動を、社長が伝えました。そして、その役割と行動に必要なスキルや知識を紹介し、セルフアセスメントを行いながら、ギャップ分析を行い、自分が強化すべきスキルを特定した後、能力開発計画を各自策定してもらいました。

  ワークショップ全体像(例)

ワークショップ全体像(例)


セッション2までの期間(1.5カ月)は、10種類以上のe-Learningを準備し、各受講者が自分に必要だと思うコースを受講。そこで学習したスキルを活用するためのアクションプランを策定したうえで、プランを上司と共有し、学習したことを活用できるような業務やタスクを行う計画を作成・実行しました。
セッション2は、セッション1とセッション間課題で学習・実行した結果を報告する場とし、各受講者の研修に対するコミットメントを継続させる仕組みとしての役割も担いました。具体的には、セッション間に実行した結果と、その経験からの学びを他の受講者と共有し、自己承認の機会にすることによって、モチベーションを高め、さらに、受講者間の相互学習を促進することで、視野を広げることを目指しました。
セッション2の後半では、組織全体で取り組むべき課題、達成すべきビジョンを特定し、それらを各々の立場で実行していくためのアクションプランを作成・共有しました。自身が作成したプランを共有することによって、周囲からの僅かなプレッシャーを感じられ、自己の能力開発に対する意欲の継続を目指しました。セッション2の終了後は各受講者が上司とミーティングを持ち、アクションプランを実行するためのサポートの依頼と、必要に応じてアクションプランへのフィードバックをもらう場を作りました。

学びを実践し、共有することで気づく

ワークショップに対する受講者アンケ―トでは「他者が話す事例からの学びがあった」 「自分の事例に対するフィードバックが貴重な学びになった」等、前向きな感想が多く書かれていました。これは、各受講者の自己認識が高まり、強化したい能力も特定でき、他者の事例の中に学ぶべきところを見つけられた可能性が高いと考えています。また、e-Learningに関しても、平均して1名5種類以上を完了させることができ、セッション2の中でも「e-Learningで学んだことが意外と良かった」などのコメントが聴かれました。
本ワークショップの目的としていたコーポレートカルチャーの醸成に関しては、学習の4段階でいう“ステージ1”から“ステージ2”にシフトする後押しができたのではないかと思います。このワークショップが、参加したマネージャーたちにとって、学習と実践を継続していく土台作りのきっかけになればと考えています。

各受講者の学習意欲を高め継続する難しさ

各受講者が能力開発計画を策定し、それを実行するワークショップでしたが、参加者によって満足度や進捗に大きなばらつきがみられました。その時々のモチベーション、業務の忙しさなど、様々な原因はあるかと思います。今後は、能力開発の個別ニーズに対応する方法だけではなく、各受講者の学習意欲に関しても個別対応ができるような施策を検討し、さらに挑戦していきたいと思います。

 


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