まだ見ぬ未来を見据え、ナラティブアプローチで若手の学習ニーズを喚起する

 

今回の一手

まだ見ぬ未来を見据え、ナラティブアプローチで若手の学習ニーズを喚起する

「今」求められる能力にフォーカスした若手の人材育成

多くの企業が若手に対して人材育成を行うときには、会社や世の中が若手の社会人に求めることを教える、学ばせる、できるように練習させる、そして、フィードバックすることをベースに、人材育成を企画・実施しています。その反面、組織の抱える中長期の課題 ― 例えば、グローバル展開、DX、イノベーション、D&I等を解決するために必要な能力は、若手に学ばせる、練習させる企業はあまり多くありません。

その理由の一つは、新入社員研修、入社2年次研修、入社3年次研修など、若手と呼ばれる対象層に対して、会社や世の中が求める役割や言動を理解、実践させることが先決であり、他のことは優先順位が下がりがちだからです。
もう一つの理由は、どの能力を学ばせるのが正解なのかわからず、仮説を立て、学習させる能力を特定したとしても「若手には難しすぎるのではないか?」「学習する必要性を理解できないのでは?」「学習しても現場で活用する機会がないのでは?」という懸念がありました。

このような現状に対し、私たちが挑戦した「新しい一手」は、中長期の組織課題を解決できる若手社員を育成することです。具体的には、若手社員がビジネスパーソンとして、今後求められる能力を学習し、自分が強化すべきことを自ら考えて特定し、自発的に学習したい、と思う研修を設計・提供することを目指しました。


不確実な未来を自ら切り開くためのナラティブ(物語)

行動科学分野でのリサーチでは、不確定なことに関して、モチベーションを高く保ちながら継続して努力することが困難だといわれています。しかし、今回の研修設計で目指したことは、まさに不確実性が高いことに対して、若手社員の意欲を喚起し、継続させることでした。
この難題を解決するための打ち手として、ナラティブアプローチを活用し、まだ見ぬ未来に自己投資をする必要性を喚起する研修を企画しました。

ナラティブアプローチは、デイヴィッド・エプストン教授がセラピーの目的で活用した方法で、成人学習(アンドラゴジー)の手法としても取り入れられるようになりました。その後、ロシター・マーシャ教授とクラーク・キャロリン教授が、ナラティブアプローチを活用した「ナラティブ学習」に発展させました。
ナラティブ学習は、様々な解釈があるようですが、共通していることは「過去・現在・未来(想像)の出来事を構造化し意味づけする」ということです。それによって成人は考え、認識し、自身の経験への意味づけを構築し、修正しながら学習をしていきます。ロシター・マーシャ教授とクラーク・キャロリン教授は、成人は、ナラティブ(物語)を「聞くこと」 「語ること」 「状況に当てはめること」で、自身が経験した過去・現在・未来(想像)の出来事に意味づけをし、新しいことを学習すると説明しています。このような学習をすることで、今まで気づかなかったことに気づくことができるようになります。例えば、ある商品やサービスの購入を検討し始め、それを購入することを想像すると、その検討している商品やサービスが、日常生活のなかで、今まで以上に目に付く機会が増えることに似ています。

今回の設計では、外部環境の過去、現状、未来(予測)の出来事をつなげ、自分(若手社員)がそのナラティブの主人公になることで、自身の経験(疑似体験)として学習し、現場に戻ってからも、そのナラティブに関連する情報を見聞きするたびに、そのナラティブを思い出し、まだ見ぬ未来への自己投資をするための学習意欲を継続する力をつけることを目指しました。
ここで重要なのは、将来求められる能力を見つけることではなく、将来起きる変化にアンテナを立て、継続的に情報収集をし、求められる能力を考え、それを習得するために現状できることを行う意識です。


未来のナラティブ(物語)を想像するために不足している経験を補うための仕組み

ビジネス経験が少ない若手社員は、暗黙知のような情報や知識、また物事の関連性に関したビジネス上での経験が不足しています。現状起きていることを鑑みながら将来を想定し、ナラティブを作成するには、どうしたら良いでしょう?

これらを補うための仕組みとして、事前にある程度の情報を提供し、それをもとに今までの経験を参考にしながら、将来のことを想像してもらうような設計にしました。そのうえで、ビジネス経験豊かな講師が、様々な情報を活用しながら、下記の情報を紹介する仕組みを構築しました。

▶変化の要因を知る
  • 20年前にはなかった事業や職種、変化したランキングを実例と共に紹介し、それに起因している事柄を説明
▶これから起こり得る可能性をさぐる
  • 今の事象を参照しながら、今後想定されている変化と、その他の夢物語的な可能性の話を共有
▶変化に対応できる能力を知る
  • 今後想起される出来事に紐づけて、これから求められる能力を紹介

未来のナラティブ(物語)を想像するために不足している経験を補うための仕組み

先日、金融業界の大手日本企業の入社3年目の社員に対し、今回の「新しい一手」を取り込んだ研修を実施しました。

近年、金融業界では、フィンテックや規制の緩和に伴い、ネット取引などのデジタル化の加速、さらに、SDG‘sなどの影響を受け、市場・顧客のニーズが激しく変化しています。それに伴い、組織で働く人材に求める役割や能力にも変化が求められています。正解が存在しないなか、自ら考えて行動できる人材を増やすために、本質的思考、創造力、協働力、多様な人とのコミュニケーション力などが、新たに求められてきました。
2020年のCOVID-19の影響でこの状況がさらに加速し、今、成果を出すために必要な能力と、今後求められる能力の両方を若手に学習してもらう必要性が急速に高まりました。
このような背景を鑑み、今後若手に求められる役割の理解と自律して考える能力を強化するための研修を提供しました。

事前課題として、世の中の情勢と業界に関する、過去、現在、未来のナラティブをオリジナルビデオで配信し、マクロ環境情報の収集や今までの経験の棚卸しを、各受講者が実施しました。
研修の中では、事前課題で実施した内容をもとに、自分自身の振り返りや内省を促し、これから自分に求められる役割と能力を考える機会を創出しました。
また、世界の様々な団体が提唱する“21世紀の人材に求められるスキル”である4C(Critical Thinking, Communication, Collaboration, Creativity)を紹介し、現状求められる能力(問題解決、周囲の巻き込み(信頼の構築)、セルフコンフィデンス、自分の強みと弱み分析)と結合した内容でスキル学習を提供しました。


2日間研修のスケジュール(例)

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「4C」に基づいた2日間研修のアジェンダ(例)

  • イントロダクション
  • プレゼンスを効果的に活用する(Communication)
  • 協働スキル(Collaboration)
  • コラボラティブリーダーになる(Collaboration)
  • VUCAの時代と問題解決(Critical Thinking, Creativity)
  • 自分の強みの再認識(Communication)
  • これからの自分を考える

*1 VUCA: VUCAとは、元々、1990年代に軍事用語として生まれた言葉で、現代ではビジネス用語としても使われるようになっている。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)のそれぞれの頭文字をとって「VUCA」と呼ばれている。

 

意識の自律と自信の創出

今回の研修では、人材育成担当者の方からも高評を得ることができました。なお、数値的な評価はできませんでしたが、3年次研修を終えた参加者の意識に変化が生まれたことが確認できました。コメントの一部を下記にご紹介いたします。

“求められる役割や立ち回りが大きく変わってくる年次だと改めて感じることができた。“
“他の受講者にフィードバックをもらったことで、自分のやる気になる状況や今後していきたいこと、周囲に貢献できそうなことが整理できた。“
“普段考える機会が少ない内容が詰まった研修だった。外部環境の変化などは、認識していても言葉にする機会がなく、このような研修の機会で深堀できたことで、日常の業務の見え方も少し変わってきた。“
“今後は、本質的な問題を把握するために状況を多角的に見ていこうと思う。そのためにも日々の情報収集や社内外のネットワークを大切にしていきたいと感じた。“
“VUCA環境を生きていかなければならない自分にとって、必要な能力の一つ“自信”を強く持ち、様々なことに挑戦していきたい。“

(参加者からのコメント抜粋)

実体験の重要性と人材育成での疑似体験

今回の研修を通し、不確実性が高いゆえに企業の課題となることを若手層に学習してもらうため、今以上に若手の可能性を信じ、仕事を任せ、新しい挑戦をさせていくことが重要だということを再認識しました。しかしながら、実際の現場では、限られた人材しか、そのような挑戦の機会を得ることができないことも事実です。
今後は、実務の疑似体験ができるような人材育成を提供し、その体験に基づき観察・振り返りができるような方法を見つけていく必要性を感じました。




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