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「Digital Leadership Forum」 イベントリポート

2021年3月12日に、クインテグラル・アジア主催「デジタルリーダーシップ フォーラム」をオンラインで開催しました。現在、多くの企業がデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでおり、組織の中でDXを主導するリーダーの重要性は誰しもが痛感されていることでしょう。このセミナーでは、AI、FinTech、人事、人材開発、組織開発の最前線で活躍する3人のプロフェッショナルを招き、「デジタルリーダーシップ」について意見を交わしました。日本、シンガポール、マレーシア、インド、インドネシア、フィリピンなどアジア諸国からご参加いただきました。以下にセミナーの内容をQ&Aも含め抜粋しご紹介します。

Mario Domingo
Mario Director: Ateneo Institute for Digital Enterprise
Group Chief Technology Officer
Chi-X Asia Pacific Holdings Ltd.

「デジタルリーダーシップに近道はない」

デジタルリーダーは、伝統的なリーダーと同様のスキルを身につけている必要があります。例えば、他者への影響力、透明性、リスクテイク、倫理観、決断力、現実的な楽観性などです。デジタルリーダーは、組織のトップ、CEOから始まり特にミドルマネージャーまでがしっかりと責任を果たすことが大切です。DXの特に初期段階で、トップが権限を委譲し過ぎる、いわゆる丸投げの場合、あるいは委譲しない(できないのに抱え込む)場合、失敗する確率がとても高くなるという調査結果もあります。

リーダーが組織のDXを主導する上で必要な能力は次のとおりです。これらを備えていないリーダーたちは苦労することになるでしょう。

  • 技術リテラシー(Technical literacy)
  • デジタルコンピテンシー(Digital Competencies)
  • イノベーション

では、各々について詳しくみていきましょう。

  • 技術リテラシー(Technical literacy)
    今日の多くの組織のシニアリーダーは、世の中が今のようにデジタルではない時代に生まれ育ちキャリアを積んできています。しかし、デジタルリーダーとしては、今の世の中がどうなっているか、AI、マシーンラーニング、ビッグデータ、RPAなどのバズワードも含め、人々が何を話しているのか理解できなければいけません。また、それらをビジネス視点でどう企業、組織の成長に活かすのか、理解し捉える必要があります。

  • デジタルコンピテンシー(Digital Competencies)
    テクノロジーを知識として知っているだけではなく、それを企業活動にどう取り入れて活かし、応用していくかが重要です。

  • イノベーション
    単に創造性を発揮するというだけではなく、実現する力も同時に重要です。組織の中で革新を進めていくための環境を整備することも必要です。

デジタルリーダーになるにはどこから始めれば良いのでしょうか。技術リテラシーについては、あなたの業界のテクノロジー、アプリケーションについて地道に学ぶことです。デジタルコンピテンシーは、技術に関する知識を実際のプロジェクトに応用、適用することです。イノベーションは、イノベーションを推進する文化を企業組織に植え付けることです。

Carmistha Mitra
Carmistha Mitra Senior VP HR, Chief Learning Officer, and Head OD
Axis Bank(ムンバイ本社、インドの民間銀行)

「Less about technology, more about people(中心はテクノロジーではなく、人)」

あるリサーチでは、デジタル時代に成功し生き延びる企業の分布はバーベル型になるという興味深い結果が出ています。
barbell
成功するのは、デジタルに精通しスピードのある巨大複合企業又はスタートアップで、その中間に位置する企業は、非常に苦労するだろうというものです。多くの企業がこの間に分類されます。では、これらの企業が成功し生き延びるためにはどうすれば良いのでしょうか。私は、大きく次の3つが重要と考えています。

1. リーダーのデジタルマインドセット
組織内外でシナジー生み出す必要があります。トップが戦略を策定し、それを組織に落とし込むことが非常に重要です。

2. デジタルエコシステム
ビジネスモデル、顧客体験(CX)、従業員満足度などさまざまな要素があり、これらがうまく連動していくことも大切です。

3. Organizational Transformation(組織改革)
組織を動かすのは人です。DXは、テクノロジーというよりも人、組織変革が鍵となります。組織内で、イノベーションと生産性を同時に推進するには、新しい分野やよりレベルの高いスキルの修得、外部から人材を採用することが必要になります。鍵となるのは、適応力、柔軟性、好奇心、アジャイルに学ぶ力などのソフトスキルです。なぜ大切かというと、テクノロジーは進化がとても速く、今日の技術が明日にも陳腐化しているような時代だからです。勿論、サイバーセキュリティやデータ分析、ソフトウェアエンジニアリングも必要不可欠ではあります。

イノベーションについても少し言及させてください。まず、Fail-Fast(早く失敗する)が許される企業文化、環境が用意されないといけません。これを実現するには、データをリアルタイムに分析し、失敗を早く知ることが必要です。失敗から得た教訓をもとにまた新しい仮説を試し、その繰り返しを早く実行することで成功を生み出すことができます。

Anshul Verma
Anshul Head Learning and OD, Asia Pacific, Lenovo


「学びの文化、イノベーション、ダイバーシティ」

私が考えるDXの定義は、「人的プロセス及びテクノロジーを駆使し、顧客主導かつデータドリブンなビジネス成果を獲得すること」です。ですから、DXに取り組んでいる組織では、人々はどのような職種であってもこれを意識して活動しなければいけません。

デジタルリーダーシップとイノベーション文化
組織のcapability(特性、能力)を理解することがとても重要です。その上で、従業員を変えていくこと、より流動的で柔軟な働き方の提案、仕事そのものの変革、変容を行っていきます。イノベーション文化を醸成するためには、必要な情報をタイムリーに提供すること、これまでにないキャリアパスを用意すること、リアルタイムに貢献・成果を出すこと、Learning & Development、フィードバック、ダイバーシティなども必要とされます。プロセス志向から成果志向へのシフト、ネットワーキングを前提としたオペレーション、デジタルゴール、戦略との連動、敏捷で無駄のない組織構造、情報を円滑に積極的に流すこと、正しい決断ができるように情報を分析し活用することです。リーダーは、起業家(Entrepreneur)であることが求められると同時に、常に学び続ける人でなければなりません。不確実な環境、正にVUCAな環境の中で、組織の舵取りを行わなければならないのです。

では、ハイパフォーマンスなデジタルリーダーたちは、どのような特質を備えているのでしょうか。曖昧さを管理できること、適応力、EQ、イノベーションの醸成、機敏に変化に対応、エンゲージメント、説得力などになるでしょうか。これらの特性を備えるために、すべて最初から取り組まなければいけないのではなく、現状を把握し、そこから積み重ねれば良いのです。

組織のラーニングカルチャー
これらを身につけるためには、組織のラーニングカルチャーが重要な役割を果たします。以前は、従業員は何時間も自主学習に費やしていましたが、今は、ツールが豊富にあるものの、平均で週に約24分しか自主学習に費やしていないという調査結果があります。これは、IT、デジタルツールの充実、接続環境の発展などにより、人々が多くの仕事を抱えてますます忙しくなっていること、それに伴い人間の注意持続時間が短くなっていることも影響しているようです。このような背景も踏まえた上で、Learning & Developmentのリーダーは、組織、個人にあったマイクロラーニングなど、学ぶ環境を整え組織のコンピテンシーを構築する必要があります。


【Q&Aセッション】

Q:Mario氏への質問です。特に公共機関において、リーダーがデジタル化を拒否する場合、あなたならばそのリーダーに対して何をしますか?

A:Mario:力業で引きずりおろすことはできないので、現実的な答えとしては待つしかないと思います。その内に、世の中のニーズが勝りそれに押されてやらなければいけなくなり、異なるリーダーシップが求められます。そして最終的には新しいリーダーに変わっていくでしょう。


Q:中間層のマネージャーは、どのようにして経営幹部をデジタルに向かわせることができますか。

A:Carmistha:私自身も数年前に体験したことです。当時の組織の中で、若い人たちには、デジタルに関する大きなビジョンと情熱がありました。経営幹部を動かすには、まず、幹部たちがデジタルについてほとんど何も知らないということを理解させるのが大切と思います。あるキャンペーンをやった時のことですが、デジタルツールを使うことについて、うまく手ほどきをして見本を見せてあげました。成果が出ると幹部たちも興味を持ち始めます。多くの若手やデジタルネイティブなスタッフたち自身が幹部のメンター、リーダーとなるのです。


Q:Technical Literacy(技術リテラシー)について、バックグラウンドが全くない人はどこから始めたら良いのでしょうか?何かおすすめのリソース、リファレンスはあるでしょうか?

A:Mario:スマートフォンから始めるのが良いのではないでしょうか。セキュリティ、コンフィグレーション設定を自分でやってみる、いくつかアプリをダウンロードしてインストールする、Slackを友人たちと使ってみる、ゲームをやってみるなど。どのような顧客体験なのか、人々が何を話しているのか感じることも大切でしょう。勿論、知識を得るという点では、YouTubeやCoursera、Udemyなども活用すれば良いと思います。


Q:イノベーションは、アジャイルな環境でこそ発展すると思いますが、最も官僚的な業界の一つともいわれるファイナンス業界においてイノベーションとDXを成功させるために大事なことはなんでしょうか?

A:Carmistha:競争がひとつの鍵かも知れません。今の銀行で、500人ほどの体制でオンラインバンキングの仕組みを一晩で構築したことがありました。これは、多くの決済サービスや仮想通貨が出て来ていることを意識してのことでした。このままではだめだという危機意識もDXやイノベーション推進の力となるでしょう。


セミナーを終えて

デジタル化を避けて通ることはできません。その中で、リーダーはどのような特質を備え、どのような姿勢、マインドセットでいるべきなのか、非常に示唆に富んだ内容でした。私自身、テクノロジーだけではなく、人・組織の重要性を再認識することができました。イノベーションや創造性を醸成するには、組織のダイバーシティ、倫理観、開放性、透明性が不可欠だと理解しました。答えのない、まさにVUCAな状況がCOVID-19によって加速された今は、レールのないジェットコースターに乗っているようなものなのかもしれません。その中で組織の舵取りをするのは簡単なことではなく、とてつもなく恐ろしいことでもあります。しかし、心の持ちようによっては、同時にこれほどチャレンジングでエキサイティングなことはないとも言えるのではないでしょうか。

 

本ブログでご紹介した内容の詳細は、以下までお問い合わせください。
お問い合わせ:https://www.quintegral.co.jp/contact/

 

筆者紹介

yuzootani

大谷 有三(オオタニ ユウゾウ)
クインテグラル株式会社 取締役

2009年、IT・ビジネス分野の人材育成を専業とするグローバルナレッジネットワーク社(現 トレノケート)に営業として入社。日本及びアジア地域の営業、事業開発にかかわる。
2021年、トレノケートグループのクインテグラル株式会社 取締役就任。日本及びアジア地域の事業統括、開発に幅広く取り組んでいる。

 


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AMAは、1923年にニューヨークで設立されたマネジメント研修の分野で世界を代表する国際教育研修機関です。世界において10万人以上の個人クライ アントと約1万社もの法人クライアントから高い評価を受けています。 グローバルナレッジマネジメントセンターは、2012年2月より、AMA (American Management Association)のサービスを国内で唯一提供する会社として設立され、2017年10月、アジアへのAMAサービス展開 に合わせ、社名をクインテグラル株式会社に変更いたしました。


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